上場編⑦:2005年4月、東証で鐘を鳴らした日

高山明美

長かったこのシリーズも、いよいよ最終回です。

準備室ができてから2年。監査法人に洗い直され、財務局に突き返され、社員が一丸になって——そして、その日がやってきました。

追い風は、たしかに吹いていた

正直に申し上げると、私たちには運もありました。

ちょうどその頃、ADSLの時代が来ていました。電話の加入権と組み合わせて安くなるようなサービスを、ソフトバンクさんと一緒に手がけたのです。

これが、当たりました。数字がぐっと伸びたのです。

上場審査では、事業が伸びている見込みを示さなければなりません。そこに、この追い風が吹いた。これが上場を後押ししてくれたのは、間違いありません。

そもそも、通信という業界そのものが、いまでは考えられないほど伸びていた時期でした。

携帯ショップが、どこもかしこもできていた頃です。いまはショップがどんどん減っていますが、当時はまったく逆でした。

面白いのは、当時の携帯電話は無料で配られていたということです。

キャリア各社が、とにかく自社のシェアを伸ばしたかったのですね。端末を無料でお渡ししても、毎月の基本料や通話料で回収できる。シェアを取れば取るほど、その分が大きくなる。そういう世界でした。

いまでは端末が20万、30万する時代です。本当に、様変わりしました。

「5年先だと思ったら、2年で来た」

もうひとつ、大きかったのが夫の先見の明です。

夫はいつも、2年先、5年先、10年先を見ている人でした。

ところが、当時はこういうことが起きるのです。

「5年先だと思っていたことが、2年で来る」 「2年先だと思っていたことが、1年後に来る」

世の中の進み方が、それほど早かった。読みが当たるだけでなく、想定より前倒しでやってくる。そんな時代でした。

余談ですが、私が学んでいるバイオリズムで見ると、夫は「ファースト」の人でした。人生のなかで20代・30代がいちばん運の強い時期にあたるタイプです。

そして、まさにその時期に、会社がガーッと伸びたのです。

もちろん、後づけと言われればそれまでです。けれど、時流と、その人の波と、決断のタイミングが重なったときに何が起きるのかを、私は間近で見ていました。

だから、こう思うのです。

読みを持つこと。時流をどう掴むか。それが、経営者にとっていちばん大事なことではないか——と。

東証で、鐘を鳴らした

そして2005年4月、ジャスダック(現・スタンダード)への上場が実現しました。創業から17年でした。

上場が承認されると、東京証券取引所でセレモニーがあります。

テレビでご覧になったことはありませんか。上場した会社の人たちが、鐘をカンカンと鳴らすあの場面です。

あれ、本当にやるのです。

夫と私、役員が何人か、それに証券会社の方々と一緒に伺いました。私も一緒に、鐘を鳴らしました。写真も撮っていただきました。

あの日のことは、いまでも鮮やかに覚えています。

何を着ていくかで悩んでいたら、夫がシャネルのスーツを買ってくれました。大阪で買って、それを着ていったのです。あれは、いい思い出です。

4月でしたから、千鳥ヶ淵の桜がそれはもう見事でした。証券会社からずっと歩いて、あのあたりを散策しました。夜は銀座のホテルに泊まって、街を歩いて。

あんな経験、なかなかできるものではありません。本当に、気持ちのいいものでした。

ちなみに、40%出資してくださっていた大手商社は、上場とほぼ同時に株を売却されました。もともと、そのための資本参加でしたから、当然のことです。うちの株は、いちばん高い時で1株80万円ほどまでいきました。すぐに下がりましたけれどね。もう少し持っていらしたら、と思ったりもします。

このシリーズで、お伝えしたかったこと

7回にわたって、お付き合いいただきありがとうございました。

お見合いから2ヶ月で結婚し、翌年にはガソリンスタンドの現場に立ちました。暴走族あがりのアルバイトが来られなくなれば、22歳の私が給油と洗車をしました。出店を反対されれば、通信という夜明け前の世界に飛び込みました。

経営の経験など、まったくないところからの出発でした。

その道のりを振り返って、いちばんお伝えしたいのは、やはりこの問いです。

「これ、あと誰が引き継ぐの?」

忙しい時期は、そんなことを考える暇などありません。電話は鳴りっぱなしで、こちらから電話をかけることすらできない。「今」をさばくだけで精一杯です。

けれど、その全盛期のなかで一度でも立ち止まって、この問いを持てるかどうか。そこで会社の未来は大きく変わります。

私たちには子どもがいませんでした。だから上場という道を選びました。答えは会社ごとに違っていいと思います。

大事なのは、答えを持つことではなく、問いを立てることです。

そしてもうひとつ。大きな目標は、人を一丸にします。「絶対無理です」と言っていた人が、いちばん強みを発揮してくれることもあります。信じて掲げ続ける価値は、たしかにあります。

経験を、次の世代へ

私は、たくさんの失敗もしてきました。

失敗の話こそ、座学ではなかなか教えてもらえません。だからこそ、私はそれを分かち合いたいのです。

経営は、ときに孤独です。事業をどう続けるか、誰に託すかという問いは、なおさら一人では抱えきれません。

このシリーズでお話しした経験を、いま同じ問いを抱えている女性たちと分かち合いたい——そう思ってつくったのが、「アルモニス(ALMONIS)」です。

どのような場なのか、どんな活動をしているのか、そしてご参加について——ここでは詳しくお書きしません。すでにご用意しているご案内レターのほうに、私たちが大切にしていることや活動内容、参加の流れまで、丁寧におまとめしてあります。

もし「もう少し知りたい」「自分も関わってみたい」と感じていただけたなら、ぜひご案内をご覧ください。

ALMONIS代表 高山明美