お見合いから2ヶ月で結婚、翌年7月には開業が決まっていた

高山明美

このシリーズでは、私が結婚と同時に経営の現場に立ち、ガソリンスタンドから通信事業へ移り、創業17年でジャスダック上場に至るまでの道のりをお話しします。

ただ、売上や成功の話を並べたいのではありません。

いちばんお伝えしたいのは、事業をどう続け、誰に引き継ぐのかという問いです。忙しさの真っ只中にいると、つい「今」のことで頭がいっぱいになります。それでもどこかで、「これ、あと誰が引き継ぐの?」と立ち止まらなければ、会社は行き詰まる——私たちは、その問いに向き合う中で、上場という道を選びました。

失敗も、迷いも、そのまま書いていきます。先を歩いた一人の経験として、いま同じ問いを抱えている方の参考になれば嬉しいです。

では、いちばんはじめの場面から。

なぜ、そんなに急いでいたのか

私が大阪に嫁いだのは、1978年のことでした。

9月にお見合いをして、11月には結婚式。いま思い返しても、めちゃめちゃ急いでいたと思います。当時は「お見合いから式までに時間が空くと、話が流れることもある」などと言われて、正直、訳がわからないままに事が進んでいきました。

でも、本当の理由は別にありました。

結婚した翌年の7月には、夫が家業としてガソリンスタンドを開業することが、もう決まっていたのです。準備も進んでいました。つまり、開業までに家庭を整えておく必要があった——私がそれを知ったのは、結婚してからでした。

京都から大阪へ。私の「経営の現場に立つ人生」は、こうして半ば強制的に、幕を開けたのです。

掛け売りが通らず、現金と安売りに切り替えた

翌年7月、ガソリンスタンドがオープンしました。

当時のガソリンスタンドは、掛け売りが主流でした。月末で締めて、集金に伺ってお金をいただく。個人のお客様は現金が多いのですが、近隣の企業さんは、たいてい掛けです。

ですから夫も、開業準備の段階で企業回りの営業をしました。ところが、行ってみればどこも「もう決まっている」のです。ガソリンをどこで入れるかは、すでに他社と話がついている。断られ続けて、お客様が集まりませんでした。

そこで切り替えたのが、現金商法です。

そして、現金でやるなら安く売らないと来てもらえません。値引きをして、勝負に出たのです。

結果、忙しくなりました。

土曜日は、道路まで車が並んだ

いちばん忙しかったのは土曜日です。給油を待つ車が、敷地から道路へずらりと並びました。

あまりに忙しくて、従業員の皆さんは食事をとる暇もありません。ですから私は、お姑さんと一緒に食べるものを買い出しして、スタンドへ持っていき、置いておくのです。手が空いた人が駆け込んで、かき込んで、また現場へ戻る。そんな状況でした。

やがて夫は、24時間営業(オールナイト)を始めました。

結婚したとき夫は27歳。いちばん元気な時期です。社員と交代で回すとはいえ、深夜営業をすれば当然、家に帰ってこられません。それで私たちは、それまで夫の両親と同居していた家を出て、スタンドの近くへ引っ越しました。

土曜日には、私が大鍋でカレーを作って持っていきました。夫と従業員さん、みんなの分です。作って、運んで、みんなが駆け込んで食べて、また走っていく。本当に忙しい日々でした。

暴走族あがりのアルバイトと、22歳の私

人手のことでは、ずいぶん振り回されました。

ガソリンスタンドに来るアルバイトの子は、なかなかやんちゃな子が多いのです。暴走族あがりの子もいました。現役の子もいたと思います。その子たちが、ある日突然、警察に捕まって来られなくなる——そんなことも起きるのです。

人手が足りなくなれば、「ちょっと手伝いにおいで」と声がかかります。私はそのころ22、23歳。ガソリンを入れ、洗車をして、車を拭き上げる。そんな仕事も一緒にやっていました。

正直に言うと——面白かったです。

苦労した、という感覚はあまりありませんでした。やっぱり私は、働くことが好きだったのかもしれません。ふだんガソリンスタンドに行けば、お兄さんが入れてくれるものでしょう。それを自分がスタンド側に立って、お客様の車に給油する。そんな経験、なかなかできませんから。

若かったからこそ、何でも面白がれた。あの時期に現場の空気をまるごと吸い込んだことは、のちに役員として組織を見るときの、たしかな土台になりました。

順調だったからこそ、壁にぶつかった

現金と安売りで勝負したスタンドは、地域でそれなりに知られる店になっていきました。

そして夫は、「もう一店舗増やしたい」と考え始めます。

ところが、そこで思いもよらない壁が待っていました。次回は、その壁がきっかけで、私たちが通信という未知の世界へ飛び込んでいく話をさせてください。

次回|「増やせないなら、他のことをする」——通信の夜明けへ